受任通知の内容と効果
その他(1)受任通知の内容
受任通知には、以下の内容が記載されます。
- ①債務者の代理人であること
- ②債務整理の受任をした旨
- ③債務者の特定(氏名・生年月日・住所など)
- どの債務整理の手続をとることになっても、①~③を記載します。①②については、下記(2)記載の受任通知の効果と関係してきます。②では、債務整理をすることに至った理由を簡単に説明したり、債権者数や債務額を記載することがあります(おおよそがわかっていたら、おおよその数・額を記載する)。これは、債権者に支払い不能である旨を知らせるためです。ただし、絶対に記載しなければならないわけではなく、受任通知発送時点で判明している事情を記載すれば足ります。たとえば、「任意整理を検討しておりますが、各債権者のご協力がいただけない場合等は、やむを得ず自己破産等の申立も検討しております」との記載も可能です。最初の受任通知では、現時点の方針を書くに留め、正確な債務額を把握する等した後、再度債権者にお知らせするという方法もあります。
- その他の記載事項としては、
- ④債権調査票への記載・提出のお願いや取引履歴開示請求
- ⑤本人・家族等への取立や連絡をやめるように求める旨
- ④については、受任通知と別途に送付することも可能ですが、受任通知に同封して債権調査票を送ったり、取引履歴の開示をお願いすることが多いです。⑤については、下記(2)に詳しく記載しているとおり、貸金業法によって債権者から債務者等への直接の取立を禁止しています(法人(会社)破産は除く。)ので、記載しなくてもわかりきっている内容ではあります。しかし、金融機関等でない債権者については、知らない方もいるので、年のためにお願いすることが一般的です。その他にも、状況をみて内容を付け加えることもあります。
(2)受任通知の効果
受任通知の最大の効果は、貸金業者の取立行為が禁止されることにあります。
貸金業者その他の債権者は、受任通知を受領すると、原則として債務者に直接請求できなくなります(※1貸金業号21条1項9号、債権管理回収業に関する特別措置法18条8項)。したがって、弁護士等からの受任通知到達後の直接の取立て行為は、貸金業法に違反する行為として、刑事罰(貸金業法47条の3第3号)や行政処分(貸金業法24条の6の3及び24条の6の4)の対象となります。
このような効果が得られるので、債権者からの取立てがなくなり、債務者の生活の平穏を確保したり、精神的安定をはかることができ、債権者による個別の権利行使を思いとどまらせたりすることが期待できます。
また、第二次的な効果として、取引履歴の開示請求や債権調査を兼ねた受任通知を送付することにより、正確な債権額を調査することができます。これにより、適切な債務整理の交渉ができたり、個人再生や自己破産の裁判所への提出書類の作成が可能となります。
また、個人破産においては、受任通知の発送は、破産法上の「支払停止」となりますので、受任通知後の弁済・回収は否認権行使(※2)の対象となり得ますし(破産法162条1項1号イ)、金融機関は、受任通知後に受け入れた金員と貸金との相殺を禁止されるなど(破産法71条1項3号)、相殺禁止効(※3)も働きます。
以上のことから、弁護士に依頼し、債権者がわかり次第、受任通知を送付することが大事になってきます。
これに対し、法人(会社)破産の場合は、貸金業法等に定めるような法律上の取立規制があるわけではなく、かえって強引な取立がされるおそれがあります。よって、受任通知の送付時期は弁護士とよく相談して決めることになります。
※1
貸金業号21条1項本文:債権の取立てをするに当たって、人を威迫し、又は次に掲げる言動その他の人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をしてはならない。
貸金業号21条1項9号:債権者等が、貸付けの契約に基づく債権に係る債務の処理を弁護士等に委託したときは、正当な理由がないのに、債務者等に対し、電話をかけ、電報を送達し、若しくはファクシミリによる送信をし、又は訪問により当該債務を弁済することを要求し、これに対し債務者等から直接要求しないように求められたにもかかわらず、更にこれらの方法で当該債務を弁済することを要求することを禁止している。
債権管理回収業に関する特別措置法18条8項:債権回収会社は、債務者等が特定金銭債権に係る債務の処理を弁護士又は弁護士法人に委託し、又はその処理のため必要な裁判所における民事事件に関する手続をとった場合において、その旨の通知があったときは、正当な理由がないのに、債務者等に対し、訪問し又は電話をかけて、当該債務を弁済することを要求してはならない。
※2否認権行使
債務者による債権者を害する財産減少等の行為(たとえば、債務者の100万円の価値がある物を10万円で友人に売った)や、特定の債権者にだけ借金を返す等の行為(たとえば、A銀行には借金を返さないけど娘に借りていたお金は返す)等をすると、これらの行為の効果が否定され、流出した財産が原状に戻されることになります。
※3相殺禁止効
たとえば、受任通知がA銀行に到達した後に、債務者がA銀行に預金口座に入金した場合でも、その預金とA銀行が債務者に対して持っている債権とを相殺することはできない。
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