裁判所からの通知を無視すると生じるリスクについて

債権者が、裁判所を通じて取り立てる手段として、支払督促申立と通常民事訴訟の方法が考えられます。
しかし、ほとんどの債権者(特に貸金業者)は、支払督促申立を行います。民事訴訟は、原告(債権者)の主張だけでなく、被告(債務者)の主張も聞いて判決しなければなりません。一方、支払督促では、債権者の申立内容のみを審査して判断することになるので、時間と費用がかからず、債権者としてはメリットが大きい手段です。
そこで、債権者から支払督促申立がされた場合を想定して、通知を無視するリスクをみていきます。
 

(1)支払督促

簡易裁判所から、「支払督促」と書かれた書面が届きます。差出人が簡易裁判所になっており、かつ特別送達(※1)で送られてきます。
この書面には、「債務者がこの支払督促送達の日から2週間以内に督促異議を申し立てないときは、債権者の申立てによって仮執行宣言をする。」と書かれています。債権者からの書面には、「督促状」や「請求書」、「ご返済のお願い」と書かれているので、裁判所からの支払督促書面とは違うことがわかります。
債務者のなかには、裁判所からの通知だと知ってびっくりし、どうしたら良いかわからず、放置して無視しようと思う方もいるかもしれません。とくに借金の返済ができなくなっているときは、取立てが来たと思って怖くなり、あえて受け取らない人もいます。しかし、支払督促の通知を受け取らなかったとしても、法律によって、送達があったものとみなされます(民事訴訟法107条3項。「みなし送達」という)。
債務者は、この書面を受け取った日(もしくは、みなし送達日)の翌日から2週間以内に異議を申し立てないと、仮執行宣言を申し立てられることになります。仮執行宣言がされると、最終的に強制執行(※2)ができるようになります。
異議申立は、裁判所から送られてくる支払督促書面のなかに同封されている「督促異議申立書」に、異議がある旨の記載をするのみで足ります。
異議がある旨だけを申し立てれば強制執行が進むことはないのに、裁判所からの支払督促の書面を受け取らなかったり、受け取って放置したりすると、債務者の不利になります。裁判所からの通知があった場合は必ず受け取り、時間がない場合や判断に迷っている場合は、とりあえず異議申立をすることも一つの賢明な手段といえます。
 

(2)異議申立後の流れ

異議申立をするだけでは、債権者の強制執行の機会がなくなるわけではありません。通常民事訴訟に移行して、双方争うことになります。
まず、異議申立後に、裁判所から、特別送達郵便で、「訴状」「答弁書」「口頭弁論期日呼び出し状」などの書類が送られてきます。
なお、訴状を受け取らなければ裁判が始まらない、ということにはなりません。最終的には公示送達(裁判所の掲示板に掲示)され、送達したとみなされます。
債務者は、答弁書を作成して提出します。答弁書には、債権者が作成した訴状(例:100万円を返せ。)に対する認否や、債務額については認めるが、分割払いにしてほしい旨などを書きます。
また、「口頭弁論期日呼び出し状」には、裁判所への出廷の日時について書かれています。
裁判期日までに答弁書の提出をしなかったり、裁判期日に出廷しない場合、欠席判決となり、債務者の不利な内容の敗訴判決がだされます。
よって、訴状を受け取らなかったり、受け取っても無視して、答弁書の提出も出廷もしなかった場合は、判決が確定して、強制執行がされることになります。
自分で答弁書を作成し、裁判に出廷して主張立証の活動をすることは可能ですので、弁護士に依頼して、答弁書の作成や出廷をお願いすることは不要かもしれません。しかし、きちんと訴状等を受け取ったとしても、答弁書の作成等は法的知識が必要になりますし、裁判期日までに時間がたくさんあるわけではありません(訴状を受け取ってから裁判まで1か月未満の場合もあります)。そうなると、答弁書の提出が間に合わなかったり、出廷ができないということになり、結果的に通知を無視する場合と同様のデメリットが生じることになります。
弁護士に依頼した場合は、債務者本人が行うより、債務者に有利な和解(減額や分割払い等)を進めることも可能です。また、裁判所からの通知が来た時点で弁護士に相談すると、他の債権者との和解や交渉を依頼するきっかけになることもあります。法的専門家である弁護士に相談し、債務整理の方法(そもそも返済できないから破産等も検討する)から相談し、無駄な訴訟活動をせずに全ての債務について解決が見いだせると思います。
 
※1 特別送達
特別送達とは、裁判所が差出人となり送達する方法です。郵便配達員が郵便物を直接渡す方法で配達されます。民事訴訟法第103条~第106条、第109条。
 
※2 強制執行
国の機関である執行機関(執行裁判所・執行官)のよって、強制的に権利実現を図ることをいいます。たとえば、給料の差し押え、預金口座の差し押え、自動車の差し押え等があります。これらを差し押さえて現金化して、債権者に交付します。ここまでされると、債務者の周囲の人(職場の人や家族等)に知られてしまうデメリットがあります。

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