私的整理(企業)

私的整理とは

私的整理とは、破産や民事再生などの法的整理によることなく、債務の整理をするものです。

『私的』とついているのは法的な拘束力がないからです。法的整理では、要件を満たせば法律の力で、たとえ反対している人がいても強制的に借金をカットするのに対して、私的整理では債権者の同意が必要です。
ちなみに、個人の場合には任意整理といいますので、個人の方は任意整理のページを御覧ください。

企業の再生を目指す場合にはまずは私的整理の検討を

私的整理と法的整理とでは、それぞれメリット・デメリットがあるのですが、企業の再生を目指す場合には、まずは私的整理でなんとかならないか検討するのが一般的です。

  • なぜかというと、法的整理(民事再生や会社更生)は、公平のため全債権者をまきこむ必要があるからです。
  • 全債権者というのは金融機関だけではありません。取引先も含まれます。買掛金や未払いの支払いがあればいったん全ての支払を停止しなければならなくなるのが一般的です。
  • これをやってしまうと取引先からの信頼を失い、その企業にとって致命傷になるケースが多いです。

大企業であれば、既存の取引先に迷惑をかけても、新たな取引先を開拓したり、既存の取引先もやむを得ず取引を継続してくれるかもしれません。
しかしながら、中小企業、とくに小さな企業ほどそうはいきません。既存の取引先を失えばそれだけで致命傷になるおそれがあります。

また、大企業であるならば安心というものでもありません。法的整理を開始したことはニュースで報じられますので、中小企業はもちろん、大企業でもブランド価値の大幅な低下が避けられません。
そのため、事業をもう閉じざるを得ない場合(破産)は別ですが、そうでない限り、多くの企業はまずは事業再生を目指す場合には民事再生ではなく、私的整理を検討するのが一般的です。
もちろん、全ての場合に私的整理ですむわけではなく、民事再生や会社更生という大鉈をふるわなければいけないケースもあります。

私的整理のメリット

  • ・法的整理の申立ては直ちに公になり、報道されるのに対し、私的整理は非公開で行うことができる
  • ・取引先を巻き込まず、銀行などの金融機関からの債務だけ対象にすることできる
  • ・経営陣の構成に影響がないパターンもある(ただし、現経営陣に不信感を持たれている場合には、経営陣の交代などを要求されることがありますし、株主構成が変動することにより退任するケースもあります)
  • ・既存の株主構成に影響がないパターンもある(ただし、スポンサー型の場合にはスポンサーに株式譲渡をしたり100%原資を行う場合もありますし、自主再建型でも債務を株式にかえて銀行に引き渡したり、株式に影響するパターンもあります)
  • ・法律の枠組みに縛られないので事業規模や業種に応じて、様々な再建案を出すことができる
  • ・事業規模や選択する私的整理の手法にもよるが、法的整理よりも柔軟な方法ですすめることができる

このように、私的整理は法的整理と比べて穏当な手続きといえます。

私的整理のデメリット

  • ・あくまでも債権者との合意が必要なので、ノーと言われた場合に強制することはできない

なお、債権者、とくにメインバンクとの交渉の際に一発OKが出ればそれで問題ないものの、銀行側としても譲歩するからには納得のいく再建プランを求めています。
銀行側を説得できるだけの再建プランをきちんと詰め、そして、銀行側が何色を示したところにはきちんと対応して再度プランを提示するなどが必要です。
たとえば、現経営陣が不祥事を起こしたことによって減収につながっている場合や銀行側に虚偽の説明をしていたことが発覚した場合には、現経営陣の退任など抜本的な改革を求められることも多いです。

私的整理が向いている企業

銀行などの金融機関に対する返済額が大きく、そのため、赤字に陥っている企業

私的整理では、一般的に、取引先には手を付けず、銀行などの金融機関と交渉をすることになります。そのため、金融機関への返済額が少なくなれば財務状況が大きく改善し、黒字化する見込みがでる企業に向いています。

メインバンクからの借入額が大きく、他の金融機関からの借入れがそれほど多くない企業

たとえば、銀行や信金など計100社からそれぞれ100万円を借りており、計1億円の負債があるという場合に全金融機関はもちろん、多数からの合意を得るのも困難です。これに対して、メインバンクからの負債が1億円で、他数社から何百万円か借りているという場合には、メインバンクと合意さえ得られれば再生可能性がグンと上がります。ただし、メインバンクが私的整理に反対しているような場合には一気に困難となりますが。

改革の余地が残されている企業

たとえば、個人事業主で、従業員もほとんどおらず、店をまわしていくだけで赤字で、とても返済なんてできないという場合には残念ながら破産をおすすめせざるを得ないです。それに対して、リストラや不採算事業の整理、黒字部門の事業譲渡による原資の捻出などをする余地があれば債権者が納得してくれる可能性が高くなるでしょう。

私的整理には様々な方法がある

私的整理はあくまでも、金融機関との任意交渉です。
そのため、私的整理ガイドラインに従った申し入れ、事業再生ADRの利用、中小企業再生支援協議会による私的整理、REVICによる私的整理、RCCによる私的整理のほか、特定調停、さらには、そういった準則型私的整理によらないで弁護士が代理人として協議する方法もあります。
なお、どの方法をとるにしても、いきなり私的整理をはじめましたーなんてやるのは納得を得られないでしょう。あらかじめ、再建計画をつめて、メインバンクに説明、理解を求め、あるいはメインバンクからの要望もきちんときく必要があります。
たとえば、メインバンクが経営者に対して不信感を抱いている場合には経営者の交代なども含めて検討する必要があります。

私的整理は夢のような企業再生方法ではないので注意

企業の再生を目指す方にとっては、場合によっては一部債権放棄もありうる私的整理は非常に魅力的な手続きに映るでしょう。
しかしながら、法的整理と違って、あくまでも対象となる債権者の合意を得なければならないので、様々な困難もあります。
銀行側としては、納得がいかない再建案(見通しの甘い計画を持ってこられたり、弁済案に納得いかない場合)には容赦なくノーを突きつけますので、事業者側もその意向を踏まえて再度再建案を出す必要があります。
私的整理をする場合には、生半可な覚悟ではいけません。経営者もときには身を切る覚悟で本気で事業再生をする意欲が必要ですので注意してください。

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