一社のみが債権者の場合でも任意整理は可能か?

Contents

(1)任意整理の手続方法

任意整理は、債務整理の方法の一つであり、他に個人再生と自己破産があります。
個人再生と自己破産は、裁判所に申立てて行う手続きです。この2つの手続きは、債権者平等の原則により、すべての債権者を対象にして手続きをとらなければなりません(破産法194条2項、同法265条、民事再生法229条1項、同法244条)。
一方、任意整理は、個別に債権者と交渉することになり、個人再生や自己破産のような債権者平等原則を規定した法律の適用は受けません。
 

(2)多重債務者とは

任意整理は、多重債務者の経済的再生を図るための手続きです。返済ができずに生活すらままならないときにとる手続きであり、債務者の生活状況や収入状況等に照らし、債権者との交渉によって借金を減らす(具体的には、利息をカットしてもらう等)ことを目的としています。
多重債務者というと、債権者が何社もあり、それらの借金を合計して多重に債務を負ったというイメージを持つかもしれません。
たとえば、30万円のブランド物のバックを買うためにカードローンをした場合、この債権者とだけ任意整理するというのは、債務者の経済的再生を図るために必要とは思われないかもしれません。この債務者が健康に働いていて収入があれば、債権者としても交渉に応じないでしょうし、弁護士等に依頼する費用に見合わないように思われます。
しかし、一社から3000万円の借金をしていたらどうでしょうか。月々きちんと返済をしていたが、病気やけがで働けなくなり、保険や公的扶助だけでは返済することができなくなった、といった場合です。この場合は、たとえ一社のみが債権者であっても、経済的再生を図る必要がある債務者であるといえます。
このように、多重債務者とは、一社のみが債権者であっても当てはまるといえます。
 

(3)契約自由の原則

任意整理の交渉が上手くいき、毎月の返済金額と返済期間が決定したとします。そうなると、借金をしたときの契約と内容が変わります。たとえば、500万円の元本に利息等があったものを、利息制限法所定の制限利率によって元本充当計算を行い、それまでの遅延損害金や将来利息を付けないこととし、残元本が300万円となったとしましょう。これを分割払いで払うという契約にしました。これは、当初の金銭消費貸借契約(500万円)から、新たな契約(300万円)を締結したことになります。債権者と債務者が同意していれば、契約自由の原則により、このような契約をすることに法的に何ら問題はありません。
よって、何社の債権者がいても、合意して新たな契約をしてくれた(任意整理に応じてくれた)債権者とだけ任意整理することができます。また、最初から一社のみと任意整理の交渉をすることも可能です。
 

(4)何社も債権者がいるのに、一社のみと任意整理することの危険性

上述したとおり、分割払いになるとはいえ、元本の支払いはしなければなりません(なお、個人再生は元本のカットが認められており、自己破産は債務の全額の返済を免れることができます)。また、任意整理をしない債権者には従来通りの支払いをする必要があります。生活状況や収入状況から、収支のバランスをみて、一社のみ・一部のみと任意整理を行っても返済ができないような場合には、任意整理をすることはできず、個人再生・自己破産を検討すべきことになります。
たとえぎりぎりの状態で任意整理をすることにしても、後から急な出費が必要になったり、収入が減ったりしたら、借金の返済ができなくなる可能性があります。その結果、個人再生や自己破産の手続きに切り替えることとなり、債権者にもさらなる迷惑がかかりますし、弁護士費用等の費用も余計にかかることになりかねません。
そうならないためにも、任意整理自体が適切か、一社のみ・一部のみの任意整理が適切か、といった判断は、弁護士とよくご相談をして決定するようにしましょう。相談の際は、必ずすべての債権者を正直に話すことです。なんとかなると思っていても、債務整理の経験がある弁護士の視点から判断してもらうことが、結果的にリスク回避となることも大いにあります。

その他のコラム

債務整理中に新たな借り入れをするのは

(1)債務整理中とは 債務整理には、①任意整理②個人再生③自己破産があります(※1)。どの手続きをとっても、弁護士に依頼をすると、必ず弁護士から債権者へ受任通知(※2)を発送します。よって、債務整理中とは、①②については受任通知発送0借金の返済終了までをいい、③については裁判所から認められる時点(例:免責決定時)をいいます。   (2)ブラックリストについて 受任通知を受け取った債権者(金融機関等)は、いわ...

破産申し立ての相談から終わりまでの流れ

自己破産を検討している方の中には、どこに相談したら良いのか、どのような流れで進めていけば良いのかわからず、気になっている人も少なくないでしょう。 手続きの流れを把握しておくと、今後のスケジュールも立てやすくなり、準備も進めやすくなります。そこで今回は、破産申立の相談から終わりまでの流れを詳しく解説していきます。   破産申立とは 自己破産の申立を行うには、居住している場所を管轄している地方裁判所に「破産申立書...

ブラックリストとは(信用情報機関)

ブラックリストとは ブラックリストとは、「信用情報に自己情報として登録されている状態」のことを、いわゆる「ブラックリストに載っている」というように巷では表現しています。 ブラックリストは実際に名簿やデータベースとして存在しているものではありません。 ブラックリストの正体は、債務整理を利用したり、クレジットカードや奨学金の支払いが一定期間滞った時に、信用情報に事故情報が登録されている状態のことを言います。   ...

受任通知の内容と効果

(1)受任通知の内容 受任通知には、以下の内容が記載されます。 ①債務者の代理人であること ②債務整理の受任をした旨 ③債務者の特定(氏名・生年月日・住所など) どの債務整理の手続をとることになっても、①~③を記載します。①②については、下記(2)記載の受任通知の効果と関係してきます。②では、債務整理をすることに至った理由を簡単に説明したり、債権者数や債務額を記載することがあります(おおよそがわかっていたら、おお...

債務整理は自分でできるのか

債務整理を弁護士に頼まず、自分ですることは可能でしょうか。答えは「可能です」。しかし、自分で債務整理をするにはデメリットが大きいため、おすすめはできません。弁護士に依頼した方が債権者も債務者もほとんどストレスなく債務整理ができるためです。 とはいえ「借金を返すお金もないのに、弁護士に依頼するお金なんてない」とお考えの方もいるかもしれません。それでも債務整理を自分でするより弁護士に任せた方がいい理由をご紹介します。 ...

相談は何度でも!相場よりも良心的な費用!