債務整理中に新たな借り入れをするのは
債務整理Contents
(1)債務整理中とは
債務整理には、①任意整理②個人再生③自己破産があります(※1)。どの手続きをとっても、弁護士に依頼をすると、必ず弁護士から債権者へ受任通知(※2)を発送します。よって、債務整理中とは、①②については受任通知発送0借金の返済終了までをいい、③については裁判所から認められる時点(例:免責決定時)をいいます。
(2)ブラックリストについて
受任通知を受け取った債権者(金融機関等)は、いわゆる「ブラックリスト」に債務者情報を登録します。ブラックリストというリストがあるわけではなく、「信用情報機関」というところに登録されます。信用情報機関は、JICC・CIC・KSCの3つが存在し、金融機関等はこれら全ての機関の情報を見ることができます。ブラックリストには、顧客情報と取引事実(例えば、「個人再生」「破産申し立て」)が登録されます。顧客情報とは、氏名・生年月日・住所等です。借入金融機関等に届出ていた場合、途中で婚姻等により氏名が変更したり、引っ越しにより住所が変更した場合は、それらも登録されます。ブラックリストに掲載されている人は、ほぼ確実に新たな借入はできなくなります。
もちろん、債務整理中に新たな借入をすることはできないという法律はないので、借入申込をすることはできます。しかし、債務整理中である者に新たな借入をさせることは、返済能力が劣っているもしくは欠いている状態の者に貸すことであるので、債権者にとって自殺行為のようなものです。よって、ほぼ不可能だと考えてください。
(3)新たな借入をしたらどうなるのか
債務整理を弁護士に依頼した際、新たな借入をしないという項目が契約書の中に入っていることが多いです。弁護士は、債権者との交渉において、債務者の状況等を説明し、借金全額を返済することは到底難しい、だからなんとか利息のカットや返済額の減額をして欲しいと要求します。本来であれば債権者は借金を返せと言える権利を持っています。その権利を縮小したり放棄して、弁護士がついているならば信頼して元本は返ってくるから、と交渉に応じるわけです。それなのに、新たな借入をすれば、新債権者に返済するのに債務整理した債権者には返済しないということになりかねません。また、借金が増える一方であり、任意整理中に新しく任意整理する債権者が増えるのはイタチごっこになります。よって、弁護士としてそのような債権者は信頼できないということになり、契約違反で委任契約が終了となります。弁護士がいなくなると、受任通知の効果はなくなりますので、借金は減らないですし、自分で交渉しなければなりません。弁護士がつかなくなった債務者と交渉することは、債権者にとっても信用がない者との交渉となり、応じてくれるのは難しくなります。
後に新たな借入をしていたことが判明すると、分割払いができなくなり、一括の請求されることになります。もちろん、債務者は返済ができないでしょうから、そうなると車や家などが差し押さえられたり、裁判を提起されたりすることになります。せっかく周囲に知られずに任意整理していたのに知られることになったり、自己の財産を失うことになったり、マイナスはかなり大きいです。
個人再生や自己破産の場合、新たな借入を増やすことは免責不許可事由に該当し、認められないことになります。
(4)お金が必要になった場合はどうすれば良いのか
まず、任意整理の場合、急な出費等の状況をみこして、月々無理のない範囲での返済額を設定しています。たとえば、収入額と支出額を見て、月々5万円の返済が可能だとしましょう。しかし、それでは急な出費に備えられないので、月々203万円の返済にしてもらう、ということです。債権者としても、ギリギリの返済額を設定して返済が滞るより、毎月少しずつ確実に返済をしてくれることがメリットになると思い、応じてくれます。よって、将来的に必要な出費や収入が減る可能性などがある場合は、弁護士に依頼する時によく相談し、返済額の交渉をお願いすることが大事になってきます。
それでも難しくなった場合は、一人で判断せず、弁護士に相談することです。状況を見て、場合によっては自己破産切り替えたり、交渉内容変えたりすることが可能です。
※1 債務整理の種類①任意整理②個人再生③自己破産
- ①任意整理は、弁護士が受任通知を発送し、取引履歴を見て、状況に応じて3~5年で分割して返済するという手続き。その際、利息がカットされるのがほとんど。債権者としても全額回収できないよりも元本だけでも返してくれるほうがマイナスにならないというメリットがある。
- ②個人再生は、借金の額を5分の1010分の1まで減らすことができ、305年で返済する。下限は100万円。それ以下に減額することは不可。自己破産するまでではなく、一定の収入があり、任意整理に債権者が応じてくれない時に裁判所に申し立てる手続き。
- ③自己破産は、借金が全額免除になる手続きである。任意整理や個人再生では返済ができない場合で、財産も全て没収される裁判所に申し立てる手続き。
※2 受任通知
弁護士等が債務者の代理人になった旨と、債務整理手続きをする旨を知らせる書面。受任通知を受け取った債権者は、直接の取立ができなくなる効果が発生する(貸金業号21条1項9号、債権管理回収業に関する特別措置法18条8項)。
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