誰にも知られずに債務整理することは可能か
債務整理債務整理をすることは、どの手続も適法に行われるものであり、何ら問題はありません。任意整理ができれば、契約自由の原則により、債権者と債務者との新たな契約を締結することですし、個人再生や自己破産は裁判所を通じて行われる手続です。債務整理をすることは個人の自由であり、権利であるともいえます。
しかし一方で、債務整理をすることは、各債権者に迷惑をかけることになることは間違いなく、もしかしたら共倒れさせることになるかもしれません。よって、債務整理をすることが周囲の人に知られると、社会的信用を失うことになるといえます。また、借金を支払うことができないと知られると、経済状況を間接的に知られることになってしまい、プライバシーをさらされる気持ちになることもあります。
そこで、具体的に債務整理の手続ごとに誰にも知られずに債務整理することができるかを考えていきます。
(1)任意整理
任意整理は、個人再生や自己破産と違い、債権者と交渉して借金を3~5年に分割して返済するという手続きです。よって、弁護士等(弁護士、司法書士)に依頼しないで、個人で行うことが可能です。しかし、個人で交渉をするとなると、電話や郵送でのやりとりを何度も行わなければなりません。仕事中に何度も電話がかかってくると、職場に知られることになりかねませんし、郵送でのやりとりとなると、同居人が郵便物を見て知ってしまうというおそれがあります。また、連絡がとれないことが続くと、債権者は職場の連絡先を知っていることがほとんどですので、職場に連絡するケースも考えられます。
その点、弁護士等に依頼すれば、連絡一切を弁護士等が担うことになりますので、上記のような危険はありません。連絡が債務者本人にいかないよう、受任時には債権者をすべて弁護士等に伝えることが大事になります。伝え漏れをしてしまいますと、直接郵便物が送られてしまい、同居人に知られる可能性があります。受任するときに必要書類(※1)を揃えて、打合せをしておけば、後は何回かの弁護士等とのやりとりで終わることがほとんどです。まれに、弁護士等からの電話で家族等に知られてしまうことは考えられます。しかし、上述のような個人での交渉は、法的素人ですので、長期間に及び何度も連絡のやりとりが考えられます。それに比べると、弁護士からの何回かの電話はリスクが小さいと考えられます。なお、弁護士には守秘義務(※2)がありますので、弁護士から周囲に知られるということはありません。
また、クレジットカードについては、債務者名義で家族カードを発行していた場合、家族カードも使えなくなり、家族に知られる可能性が高いです。よって、債務者はあらかじめその家族からカードを返してもらったりするなどの対策が必要となります。
(2)自己破産
自己破産は、裁判所に申し立てる手続であるので、原則として出廷が必要になります。裁判所出廷日は平日であるため、仕事を休んで出廷することになるかもしれません。弁護士に依頼している場合は、弁護士が代理で出廷できますが、手続中に本人出廷が要求されること(債権者集会や免責審尋といわれるもの)がありますので、その場合には絶対に出廷しなければなりません。
また、自己破産は裁判所の決定ですので、「官報」に掲載されます。官報とは、日本国の機関紙であり、書店や各都道府県に設置されている政府刊行物のコーナーや図書館、インターネットで誰でも閲覧することができます。ここには、氏名(旧姓も含む)、住所が記載されますので、他人に知られてしまう可能性があります。
裁判や官報で知られることがなくても、自己破産は一定の財産価値があるもの(家や車)は、手放さなければなりません。また、自己破産をすると、一定期間、債務者名義でローンを組んだりクレジットカードを作ることができなくなります(7~10年と言われています)。以上のことから、家族に知られずに自己破産をすることは困難であるといえます。
さらに、任意整理とは違い、裁判所へ提出する資料(※3)は膨大です。家族と同居している場合は、家族の助けが必要不可欠といっても過言ではありません。また、必要書類の中に、退職金見込額証明書があります。これは、職場に発行してもらわなければならないものですので、上手く言わないと、職場の人に勘付かれる可能性があります。
(3)個人再生
個人再生は自己破産と違い、家や車を手放さずに済むことができる場合がありますので、すぐに家族等に知られることはないかもしれません。しかし、個人再生も裁判所での手続きですので、自己破産と同様、官報に掲載されます。また、ローンを組んだりクレジットカードを作ることができなくなることも自己破産と同様です。
以上から、個人再生は家族や同居人に知られずに行うことは難しいといえます。
※1必要書類
印鑑、身分証明書、現在利用しているカード(クレジットカードやキャッシングカード)や通帳、債権者の情報がわかる物(氏名(銀行名や貸金業者名)・住所)、収入がわかるもの(給与明細や源泉徴収票等)など。各法律事務所によって追加等あり。
※2守秘義務
弁護士法23条、司法書士法24条
※3必要資料
家族全員の記載がある住民票、預金通帳すべて、光熱費や通信費の領収書、賃貸借契約書、保険証券や保険解約返戻金見込額証明書、同居家族全員の家計収支表(家族みんなの家計簿のようなもの)など
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